まったき動物園レビュー【意味不明なのに惹かれる】エドワード・ゴーリーの不穏で美しい世界

「意味が分からないのに、なぜか忘れられない本」に出会ったことはありますか?

エドワード・ゴーリーの『まったき動物園』は、まさにそんな一冊です。

・普通の絵本では物足りない
・不気味で幻想的な作品が好き
・意味を考察したくなる本に惹かれる

そんな方におすすめしたい作品でした。

私は不条理文学や幻想的な絵本が好きで、ゴーリー作品も何冊か読んできました。

その中でも『まったき動物園』は、“説明不能な魅力”が特に強い作品だと感じています。

読後には「結局なんだったんだろう?」という感覚が残るのに、不思議とまたページを開きたくなる。

今回は『まったき動物園』の感想や魅力を、実際に読んだ体験をもとにレビューしていきます。

 

ポイント

エドワード・ゴーリーの『まったき動物園』は、彼の数ある作品の中でも、とりわけ「シュール」で「愛らしい(けれど不気味)」な魅力が詰まったアルファベット・ブックです。

結論

『まったき動物園』は、

「意味不明なのに異様に惹かれる」

不条理絵本の名作でした。

ストーリー性よりも、“不穏な空気感”や“余韻”を味わうタイプの作品です。

普通の絵本では物足りない方や、エドワード・ゴーリー特有のブラックユーモアが好きな方にはかなりおすすめできます。

 

この作品のレビューを、いくつかのポイントに分けてお届けします。

まったき動物園 基本情報

作品名まったき動物園
作者エドワード・ゴーリー
翻訳柴田元幸
ジャンル絵本・幻想文学・ナンセンス文学
特徴架空生物による不条理な動物図鑑
おすすめ層ゴーリー作品が好きな大人向け

まったき動物園とは?【不気味で意味不明な架空生物図鑑】

『まったき動物園』には、現実には存在しない奇妙な生物たちが登場します。

ただ、その生物たちについて詳しい説明があるわけではありません。

「これは何?」
「どういう意味?」
「なぜこんな行動を?」

そんな疑問が次々に浮かびます。
普通の絵本のように、明確なストーリー、分かりやすいメッセージ、感動的な結末があるわけではない。

それなのに、不思議とページをめくる手が止まらないんです。

ゴーリー特有の繊細で陰影のあるモノクロ絵も、この作品の不穏さを強めています。

​1. 概要:AからZまで、存在しない「幻獣」たちの図鑑

​本書は、ゴーリーの想像力から生まれた26種類の架空の生き物を、アルファベット順に紹介していく形式をとっています。

「アンプー(Ampoo)」から始まり「ゾート(Zote)」で終わるこの動物園には、私たちが知っているライオンやゾウは一匹もいません。

ひたすら影が薄かったり、意味もなく震えていたり、不規則な動きをしたりする、正体不明の生き物たちが並んでいます。

2. ここが魅力!

「キモかわいい」の先駆け的な造形

​ゴーリー独特の細密な線画で描かれる動物たちは、決して「美しい」わけではありません。

どこか情けなく、弱々しく、あるいは完全に無表情です。

しかし、その「放っておけなさ」が不思議な愛着を生み、眺めているうちにどんどん可愛く見えてくるから不思議です。

柴田元幸氏による「短歌形式」の妙

​翻訳家・柴田元幸氏による「五・七・五・七・七」の短歌形式の訳文が秀逸です。

原文の韻を、日本の伝統的なリズムに落とし込むことで、不気味な生き物たちの解説が、まるで古の呪文や奇妙な伝承のような響きを持って迫ってきます。

「死」や「虚無」のスパイス

​ゴーリー作品らしく、単なる楽しい図鑑では終わりません。

本を閉じてもまだ見つめられているような気味悪さ。

ゴーリーらしいブラックな「静寂」が待っています。

読んでいる間ずっと「落ち着かない」

『まったき動物園』を読んでいる間、ずっと妙な居心地の悪さがありました。

怖いわけではない。

でも安心できない。

登場する生物たちはどこか滑稽なのに、笑いきれない不気味さがあります。

「理解できないものを見せられている感覚」がずっと続くんです。

この“説明されなさ”こそ、ゴーリー作品の魅力だと思いました。

普通の絵本との違い

比較項目まったき動物園一般的な絵本
登場キャラ意味不明な架空生物動物・人間
ストーリー性ほぼ無し明確な物語がある
読後感不安・混乱・余韻感動・安心感
対象年齢大人向け子供向け中心
魅力不条理な世界観教育・感情移入

​3. こんな人におすすめ

  • 普通の可愛い動物に飽きた人: 想像もつかない奇妙な形をした生き物たちに癒やされたい(?)方に。
  • 言葉遊びを楽しみたい人: 柴田氏の言葉選びのセンスを堪能したい方に。
  • プレゼントを探している人: 大人向けの少しひねったギフトとして、これほどセンスの良い絵本はありません。

4.ゴーリーの意図

さて、最も難解といってもよいのが、この本を書いたゴーリーの意図でしょう。

個人的には2つあると考えました。

ま、仮にゴーリーが答えることがあったとしても「意図なんてないよ」と言うと思いますが。

①「意味」からの解放

私たちは「物事には理由があるはずだ」とか「存在には意義があるはずだ」とか考えがちです。

そして、多くの絵本や図鑑は、読者に何かを教えようとします(ライオンは強い、ゾウは鼻が長い、など)。

しかし、ゴーリーが描く26体の生き物には、生態も、生存の目的もありません。

「ただそこにいるだけ」の奇妙で目的のない生き物たちを提示することで、「物事には理由があるはずだ」という私たちの常識を揺さぶっているのかも。

逆に言うと、物事はもっと気軽に、何も考えずに受け入れてもいいんだよと示唆しているのかもしれません。

また、読者としては、「存在には意義があるはず」なのに、この26体の「純粋な形と名前」だけの生き物には意義が感じられないことにより、現実感がなくなり、なんとも言えない変な混乱したような感覚に陥ります。

このことをゴーリーは楽しんでいるようにも思えます。

個の尊重:

この動物園にいる生き物たちは、群れをなさず、一匹でぼんやりしていたり、震えていたりします。

彼らは誰の役にも立たず、愛想も振りまきません。

ゴーリーは、そんな「役に立たない、孤独な、不可解な存在」の居場所として、この動物園を作ったようにも見えます。

たぶん、ゴーリーは現実世界でもそういった光の当たらない人たちに優しい目を向けているのです。

意味が分からないのに惹かれる理由

『まったき動物園』最大の魅力は、“意味から解放される感覚”にあると思います。

最近は、
分かりやすさ
明確な答え
すぐ理解できること
が求められがちです。

でもこの作品は、読者に説明してくれません。

むしろ、 「理解できなくてもいい」 と言っているように感じます。

だからこそ、不気味なのに心地よい。

読んでいると、夢の中の景色を見ているような感覚になります。

まったき動物園の気になった点

人によっては、

意味不明すぎる
ストーリーが無い
読後感がスッキリしない

と感じるかもしれません。

特に「ちゃんとした物語」を求める方には合わない可能性があります。

逆に、

不条理
ブラックユーモア
幻想文学
不穏な作品

が好きな方にはかなり刺さる作品です。

こんな人におすすめ

『まったき動物園』はこんな方におすすめです。

・エドワード・ゴーリー作品が好き
・不気味な絵本が好き
・考察したくなる作品が好き
・普通の絵本では物足りない
・不条理文学に惹かれる

逆に、「分かりやすい感動作品が読みたい」 という方には向かないかもしれません。

総評

​『まったき動物園』は、「実在しないからこそ、私たちの心の奥底に住んでいそうな何か」を突きつけてくる名作です。

一匹一匹の表情や立ち振る舞いをじっくり眺めていると、いつの間にか自分もその動物園の檻の中に迷い込んでしまったような、心地よい不安に包まれます。

個人的なお気に入り:

惰眠をむさぼる「リンプフリグ(Limpfhrig)」のやる気のなさは、現代人の休日を象徴しているようで、妙に親近感がわきます。

​実は…

​なんだかんだ書きましたが、実はゴーリーがこの本で言いたかったのは、特定のメッセージというよりは、「世界は奇妙で、説明がつかず、そしてそれでいいのだ」ということかもしれません。

​読者が「これは一体何なんだ?」と首を傾げること。それこそが、ゴーリーが仕掛けた最大のいたずらであり、成功の証なのです。

まとめ|意味不明なのに忘れられない一冊

『まったき動物園』は、普通の絵本とはまったく違う作品でした。

意味が分からない。

でも惹かれる。

不気味。

でも美しい。

そんな矛盾した魅力があります。

「理解する」というより、“感覚で味わう”タイプの作品。

読後にじわじわ余韻が残る、不思議な一冊でした。

ゴーリー作品が好きな方へ

『まったき動物園』が刺さった方には、エドワード・ゴーリーの他作品もおすすめです。

特に『不幸な子供』や『おぞましい二人』は、“可愛いのに不穏”というゴーリーらしさがさらに濃厚。

読後に妙な静けさが残る、唯一無二の世界観を味わえます。

・幻想的な絵本
・少し不穏な芸術作品
・静かな狂気を感じる本
・余韻が残る作品

-