【ルーヴルの猫】
松本大洋独特のタッチに、フランス人カラーリストによる色彩を纏った漫画。
絵本のような、夢のような、静謐で物悲しい独特の空気感を持つのが特徴です。
上質なフランス漫画みたい。
ぜひ、カラー版で読んでほしい。ちょっと高いけど。
とってもオススメです。


世界観
絵画の世界と現実が交錯する不思議で詩的な物語。
人間から隠れて暮らす猫たちの日常と、一匹の白猫が絵画の中の異世界へと冒険するファンタジー。
松本大洋の独特の画力と世界観で、アートと猫とフランスが見事に融合し、幻想的な雰囲気を醸し出します。
この世界観を構成する要素
- ゆきのこ(白猫)
現実の世界よりも「絵画の世界」に惹かれていく存在。この作品の世界観の象徴。全編を通して、ゆきのこの白さがルーヴルの重厚な背景の中で際立ち、彼の無垢さと孤独を象徴しています。 - 猫たちの視点と秘密の生活
猫たちが人間に知られず暮らします。独自の社会や掟が描かれます。猫たちが人間には「擬人化された姿」で見え、猫同士では「猫の姿」で見えるという演出が、読者を魔法のような世界観に引き込みます。 - 絵画と現実の融合
絵画から聞こえる声に導かれ、猫が絵画の世界に入り込むなど、絵画が生きていて意思を持っているかのように描写されます。 - ノスタルジックで詩的な雰囲気
松本大洋独特のタッチと、フランス人カラーリストによる色彩。 - 美術館という場所
「重厚な歴史」と「静寂」。石造りの質感、高い天井、果てしなく続く回廊。松本氏が描くルーヴルの風景は、それ自体が一つのアートです。 - そして、松本大洋の圧倒的な画力
震えるような繊細な線で、猫の柔らかさ、儚い世界観を表現しています。
あらすじ
白い猫(ゆきのこ)の不思議なお話です。
舞台はルーヴル美術館。
ガイドをしているセシルはある日ガイド中に白い猫を見かけます。
屋根裏にはひっそりと猫達が棲みついていました。
猫達は身の安全のため人間から隠れて暮らしています。
一匹の白猫(ゆきのこ)は絵に魅入られていて、掟を破り、美術館に顔を出してしまいます。
そして、絵画の声に導かれて絵の中に入っていく…
猫達の世話しているのが、美術館に勤めているマルセルという老人。
マルセルには秘密があります。
彼の姉であるアリエッタは、50年以上前に美術館で忽然と失踪したのです。
ゆきのこ同様、「絵の声が聞こえる」不思議な少女でした。
アリエッタは現実社会とは上手くいかず、絵の世界にどんどん魅入られます。
そしてある日絵の中に入っていきます⋯。
マルセルは親や警察にその事を訴えますが誰も信じてくれません。
そして今も美術館に勤めながら姉を探し続けているのです。
マルセルはセシルにアリエッタの話を聞かせます。
セシルが誠実で物静かな女性だったからです。
マルセルは子供心に楽しそうだけど怖い絵だったと言っています。
セシルはどんな絵に入ったのか考えます。
見つけたその絵【アモルの葬列】は修復中で⋯⋯
平行して猫たちのストーリーが描かれます。
個性的な猫たちです。
美術館の屋根裏部屋で仲良く暮らしてますが、黒猫のノコギリはゆきのこを殺してやろうと狙ってます。
掟を破り美術館に顔を出すゆきのこは猫たちを危険にさらすからです。
しかし、このノコギリが起こす感動的な行動。
見どころです。
また、屋根裏の窓にいる蜘蛛も印象的です。
「ふふふ、きみの(白猫)のあくびを見るのが好きだよ⋯僕ってこの世界が大好きなのさ。」
「ここから入る若葉のかおりが大好きさ⋯やがて時がすすんでハッパが落ちて⋯僕は終わっちゃう⋯それでも世界はつづいていくんだ」
多分、この蜘蛛は現実世界に馴染めないアリエッタやゆきのことの対比として描かれているのでしょう。
だから寿命で死んでしまうのですね。
(絵に入ると歳をとらない)
下巻ではセシルが「アモルの葬列」を修復している場所に行きます。
そして終盤、ゆきのこは絵の中でアリエッタと出会います。
絵の世界はとても幻想的で美しく夢のような世界でした。
ゆきのこは絵の世界に住み着くのか、現実世界に帰るのか。
また、アリエッタはどうなるのか。
ぜひ、楽しみに読んでみてください。
まとめ
松本大洋作品に共通するテーマですが、本作でも「疎外された者たち」への愛が溢れています。
- 家族から離れたゆきのこ、人間に捨てられたのこぎり、行方不明になった姉を探し続けるマルセル。
- ルーヴルという「人類の記憶の殿堂」の中で、忘れ去られそうな小さな命や感情が丁寧に拾い上げられていく過程は、胸を締め付けられるような切なさと、救いを与えてくれます。