エドワード・ゴーリーの『けだもの赤子』は、彼の作品群の中でもひときわ異彩を放つ、ブラックユーモアの極致とも言える一冊です。
こんな人におすすめの絵本です。
・エドワード・ゴーリー作品が好き
・ブラックユーモアや不条理文学が好き
・普通の絵本では物足りない
・「怖いけど美しい」作品に惹かれる
・ダークで芸術性の高い本を探している
この作品を語る上で欠かせないポイントを深掘りしながらレビューします。

どんな話?
『けだもの赤子』は、不気味で愛されない赤子の誕生から結末までを、冷徹かつユーモラスに描いた短編絵本です。
普通の絵本との違い
『けだもの赤子』は、一般的な絵本とはかなり異なる作品です。子ども向けの温かい物語を想像して読むと、その不穏さとブラックユーモアに驚かされるかもしれません。
| 一般的な絵本 | 『けだもの赤子』 |
|---|---|
| 子ども向けの作品が多い | 大人が読むとより楽しめる独特の世界観 |
| 温かく優しい物語が多い | 不穏で冷徹な物語 |
| 教訓や優しさが描かれることが多い | 不条理とブラックユーモアが中心 |
| 明るく親しみやすい絵柄が多い | モノクロの緻密で退廃的な線画 |
| 読後に安心感が残る | 不気味さや奇妙な余韻が残る |
もちろん、すべての絵本が「温かく優しい作品」というわけではありません。
しかし、『けだもの赤子』が一般的な絵本と大きく異なるのは、読者が無意識に期待する「赤ちゃんは可愛いもの」「物語には救いがあるもの」という前提を、あえて裏切ってくるところです。
その期待とのギャップこそが、この作品の大きな魅力なのだと思います。
『けだもの赤子』の怖さと魅力
1. 「可愛くない」ことへの徹底したこだわり
赤ちゃんを主題にした絵本には、無垢さや愛らしさが期待されるものですが、ゴーリーはその期待を真っ向から裏切ってきます。
ここに登場する「赤子」は、不気味で、貪欲で、周囲に不快感を与える存在として描かれています。
読者が抱く「子供は守られるべき、愛されるべき存在」という倫理観を、あえて逆なでするような描写の連続は、ゴーリー特有のものです。
2. 緻密な線画と「無機質さ」の対比
ゴーリーの真骨頂である細密なペン画は、今作でも健在です。
背景や人物の衣服に施された執拗なまでの細い線の重なりが、物語の不穏な空気を一層引き立てています。
赤子の醜さと、背景の静謐でどこかヴィクトリア朝風の気品ある構図とのギャップが歪を生んでいます。
3. 突き抜けた「ナンセンス」の美学
この物語には、教訓も感動もありません。
ただただ「ひどい赤子」が「ひどい目に遭う」過程が淡々と綴られます。
しかし、その救いようのなさを、なぜか楽しめるのがゴーリー作品の不思議な魅力です。
世の中の「綺麗事」に対する皮肉な視点が、一貫したスタイルとして完成されています。
『けだもの赤子』に漂う静かな怖さ
ページ数は少ないものの、読み進めるほど不穏さが増していきます。
露骨なグロ描写ではなく、静かに精神へ残るタイプの「怖さ」がある絵本です。
読後感
読み終えたあと、嫌悪感と笑いが同時に残る不思議な感覚があります。
「こんな話なのに、なぜか美しい」
その矛盾こそ、ゴーリー最大の魅力なのかもしれません。
この作品に込められた意味を考えてみる
ゴーリー本人がこの作品にどのような意味を込めたのか、私たちが正確に知ることはできません。
ここからは、あくまで私が『けだもの赤子』を読んで感じたことです。
1. 「無条件の愛」へのアンチテーゼ
世の中には「赤ちゃんは無条件に可愛く、愛されるべき存在である」という強固な社会的規範(タブー)があります。
ゴーリーは、あえて「全く可愛くない、むしろ不快な赤子」を描くことで、その固定観念を冷徹に突き放しました。
「愛せないものを愛さなければならない」という強制的な道徳観に対する、彼なりの強烈な皮肉や抵抗が込められているように感じられます。
2. 世界の「不条理」と「無慈悲」
ゴーリー作品に共通するテーマですが、世界は理由もなく残酷であり、善人が報われるとは限らず、悪人が罰せられるとも限りません。
『けだもの赤子』においても、その誕生から最期まで、そこには何の因果応報も救いもありません。
「人生には何の意味も理由もない瞬間がある」という、「無意味さ」が、彼が描きたかった世界観なのでしょう。
3. 「死」や「孤独」の様式美
ゴーリーは、死や不幸をあえて「淡々と」「記号的に」描きます。
悲劇を過剰に嘆くのではなく、徹底して冷ややかに、しかし緻密で美しい絵でパッケージングする。
これによって、読者は現実の恐怖から切り離され、「残酷さの中にある奇妙な平穏」を鑑賞することになります。
『けだもの赤子』をおすすめできない人
『けだもの赤子』は、誰にでもおすすめできる絵本ではありません。
次のような方には、少し合わない可能性があります。
・心温まる優しい絵本を読みたい人
・可愛らしい赤ちゃんの物語を期待している人
・読後に安心感や感動を味わいたい人
・明確な教訓や、わかりやすいメッセージを求めている人
・不条理で救いのない物語が苦手な人
『けだもの赤子』には、一般的な絵本にあるような「最後は心が温かくなる」「読めば優しい気持ちになれる」といった安心感はありません。
むしろ、読後には「いったい今、何を読んだのだろう」という戸惑いや、奇妙な不快感が残ります。
しかし、逆に言えば、そこがこの作品の魅力でもあります。
普通の絵本では物足りない人。 美しい絵と不穏な物語の組み合わせに惹かれる人。 意味がわからないのに、なぜか心に残る作品を読んでみたい人。
そんな方にとっては、『けだもの赤子』は忘れられない一冊になるかもしれません。
『けだもの赤子』に関するFAQ
Q. 『けだもの赤子』は子ども向けの絵本ですか?
一般的な子ども向け絵本とは、かなり異なる作品です。
赤ちゃんを題材にしていますが、可愛らしく温かい物語ではありません。不穏な内容とブラックユーモアが描かれているため、エドワード・ゴーリーの独特な世界観を楽しめる大人に向いている作品だと思います。
Q. 『けだもの赤子』は怖い絵本ですか?
露骨な恐怖描写や、いわゆるホラー作品のような怖さとは少し違います。
淡々と描かれる不条理な出来事や、救いのない展開、そして読後に残る奇妙な余韻に怖さがあります。
「怖い」というよりも、読んだあとにじわじわと不気味さが残るタイプの作品です。
Q. 『けだもの赤子』はどんな人におすすめですか?
エドワード・ゴーリーの作品が好きな人はもちろん、ブラックユーモアや不条理な物語が好きな人にもおすすめです。
また、一般的な絵本とは違う、ダークで芸術性の高い作品を読んでみたい人にも向いています。
「怖いのに美しい」「残酷なのに、なぜか笑ってしまう」。
そんな矛盾した魅力を持つ作品に惹かれる人なら、きっと楽しめるはずです。
Q. 『けだもの赤子』を読む前に知っておくことはありますか?
赤ちゃんを題材にした作品ですが、一般的な「赤ちゃんの可愛らしさ」や「家族の温かさ」を描いた絵本ではありません。
不穏で、冷たく、救いのない展開も含まれているため、心温まる物語を期待して読むと驚くかもしれません。
一方で、エドワード・ゴーリー特有の緻密で美しい線画と、突き抜けたブラックユーモアを楽しみたい方には、非常に印象に残る一冊だと思います。
まとめ
不気味で、冷たく、決して優しい物語ではありません。
それでも『けだもの赤子』に惹かれてしまうのは、
エドワード・ゴーリー作品に、ただの恐怖では終わらない「美しさ」があるからかもしれません。
『けだもの赤子』は、ゴーリーの「残酷な遊び心」を最も純粋な形で味わえる一冊です。
読者が「ひどい話だ」と眉をひそめるのか、「ふふっ」と笑ってしまうのか。
その反応自体を、ゴーリーは高いところから観察して楽しんでいたのかもしれません。
しかし、結局のところ、彼なら「作品に隠された意味なんてない。ただそこにあるだけだ」と、煙に巻くような答えを返しそうな気もします。
それとも、そこに意味を見つけようとする私たち読者の姿こそ、ゴーリーは楽しんでいたのでしょうか。
エドワード・ゴーリーの“奇妙で美しい世界”をもっと知りたい方へ
エドワード・ゴーリー作品には、『けだもの赤子』のような不気味さだけではなく、どこか優雅で芸術的な魅力があります。
「怖いのに美しい」
「残酷なのに惹かれる」
そんな独特の世界観にハマった方は、ぜひこちらのまとめ記事も読んでみてください。
ゴーリー作品の魅力やおすすめ絵本を、愛読者目線でまとめています。
