まったき動物園レビュー【エドワード・ゴーリー】首を傾げる名作

エドワード・ゴーリーの『まったき動物園』は、彼の数ある作品の中でも、とりわけ「シュール」で「愛らしい(けれど不気味)」な魅力が詰まったアルファベット・ブックです。

この作品のレビューを、いくつかのポイントに分けてお届けします。

​1. 概要:AからZまで、存在しない「幻獣」たちの図鑑

​本書は、ゴーリーの想像力から生まれた26種類の架空の生き物を、アルファベット順に紹介していく形式をとっています。

「アンプー(Ampoo)」から始まり「ゾート(Zote)」で終わるこの動物園には、私たちが知っているライオンやゾウは一匹もいません。

ひたすら影が薄かったり、意味もなく震えていたり、不規則な動きをしたりする、正体不明の生き物たちが並んでいます。

2. ここが魅力!

「キモかわいい」の先駆け的な造形

​ゴーリー独特の細密な線画で描かれる動物たちは、決して「美しい」わけではありません。

どこか情けなく、弱々しく、あるいは完全に無表情です。

しかし、その「放っておけなさ」が不思議な愛着を生み、眺めているうちにどんどん可愛く見えてくるから不思議です。

柴田元幸氏による「短歌形式」の妙

​翻訳家・柴田元幸氏による「五・七・五・七・七」の短歌形式の訳文が秀逸です。

原文の韻を、日本の伝統的なリズムに落とし込むことで、不気味な生き物たちの解説が、まるで古の呪文や奇妙な伝承のような響きを持って迫ってきます。

「死」や「虚無」のスパイス

​ゴーリー作品らしく、単なる楽しい図鑑では終わりません。

本を閉じてもまだ見つめられているような気味悪さ。

ゴーリーらしいブラックな「静寂」が待っています。

​3. こんな人におすすめ

  • 普通の可愛い動物に飽きた人: 想像もつかない奇妙な形をした生き物たちに癒やされたい(?)方に。
  • 言葉遊びを楽しみたい人: 柴田氏の言葉選びのセンスを堪能したい方に。
  • プレゼントを探している人: 大人向けの少しひねったギフトとして、これほどセンスの良い絵本はありません。

4.ゴーリーの意図

さて、最も難解といってもよいのが、この本を書いたゴーリーの意図でしょう。

個人的には2つあると考えました。

ま、仮にゴーリーが答えることがあったとしても「意図なんてないよ」と言うと思いますが。

①「意味」からの解放

私たちは「物事には理由があるはずだ」とか「存在には意義があるはずだ」とか考えがちです。

そして、多くの絵本や図鑑は、読者に何かを教えようとします(ライオンは強い、ゾウは鼻が長い、など)。

しかし、ゴーリーが描く26体の生き物には、生態も、生存の目的もありません。

「ただそこにいるだけ」の奇妙で目的のない生き物たちを提示することで、「物事には理由があるはずだ」という私たちの常識を揺さぶっているのかも。

逆に言うと、物事はもっと気軽に、何も考えずに受け入れてもいいんだよと示唆しているのかもしれません。

また、読者としては、「存在には意義があるはず」なのに、この26体の「純粋な形と名前」だけの生き物には意義が感じられないことにより、現実感がなくなり、なんとも言えない変な混乱したような感覚に陥ります。

このことをゴーリーは楽しんでいるようにも思えます。

個の尊重:

この動物園にいる生き物たちは、群れをなさず、一匹でぼんやりしていたり、震えていたりします。

彼らは誰の役にも立たず、愛想も振りまきません。

ゴーリーは、そんな「役に立たない、孤独な、不可解な存在」の居場所として、この動物園を作ったようにも見えます。

たぶん、ゴーリーは現実世界でもそういった光の当たらない人たちに優しい目を向けているのです。

総評ふ

​『まったき動物園』は、「実在しないからこそ、私たちの心の奥底に住んでいそうな何か」を突きつけてくる名作です。

一匹一匹の表情や立ち振る舞いをじっくり眺めていると、いつの間にか自分もその動物園の檻の中に迷い込んでしまったような、心地よい不安に包まれます。

個人的なお気に入り:

惰眠をむさぼる「リンプフリグ(Limpfhrig)」のやる気のなさは、現代人の休日を象徴しているようで、妙に親近感がわきます。

​実は…

​なんだかんだ書きましたが、実はゴーリーがこの本で言いたかったのは、特定のメッセージというよりは、「世界は奇妙で、説明がつかず、そしてそれでいいのだ」ということかもしれません。

​読者が「これは一体何なんだ?」と首を傾げること。それこそが、ゴーリーが仕掛けた最大のいたずらであり、成功の証なのです。

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